自炊

『ひみつの王国』の中で不思議に心魅かれた石井桃子自身の書いた「自炊」という短い文章。

《世の中には、ご飯をつくったり、あと片づけは、がまんできても、ひとりでたべるのはつまらないという人もいる。ところが、それも私は、気にしなかった。ひとりだと、食事をしながら、ほかの人に失礼しないで新聞も読めるし、空を見あげて物思いにふけることもできる。いつかも、私は、
  友だちが死んだ
  母が死んだ
  父が死んだ
  そして わたしは
  青い空を見あげながら
  パンをたべている
と考えながら、葉のない枝のあいだから、私を見おろしてしたまっ青を見あげて、朝の食事をしていたことがあった。
 そんなときには、だれもそばにいないことが、ありがたくも思われる。・・・後略》
ひとりの時間の充実感がしみじみと伝わってくる名文だと思いました。冬の青空の孤独。