ひみつの王国 評伝 石井桃子

ひみつの王国: 評伝 石井桃子

ひみつの王国: 評伝 石井桃子

新聞で書評を見て、すぐに図書館にリクエストしました。
作者である尾崎真理子さんの生まれ年を見て驚きました。あらま〜同級生!
20年前から、読売新聞の文化欄で文壇の大御所相手のインタヴュー記事を署名つきで掲載していたので、ずっと年上の人だと思い込んでいたのです。
実際に本を手にとって、装丁にまたびっくり!
ヘンリー・ダーガーの「ヴィヴィアン・ガールズ」を持ってくるなんて!センス良すぎ。。。ひとり暮らしの病院雑役夫が19歳の時から誰にも知られずにアパートの一室で60年間に渡って描き続けていた絵物語。女性の体を知らなかったので、この女の子たちの裸には小さなオチンチンがついているともいわれています。

石井桃子さんの責任感の強い努力家、昭和史に名を残す人々(菊池寛犬養毅山本有三井伏鱒二吉野源三郎・光吉夏弥・瀬田貞二・・・・)との縁に恵まれ、つねに周りの人たちが期待する以上の仕事をしてきた先駆的な女性という光の部分だけでなく、容易に尻尾をつかませない謎の部分をも丹念に掘り起こしていました。101年にわたる生涯を駆け抜けさせた原動力はいったい何だったのでしょう?

姉たちが家制度の中で結婚させられていき、幸せそうではなかったこと。大学時代の親友との深い交わり。戦争末期に女性教師とともに宮城県に移り住み農場を開墾したこと。私生活ではヴィヴィアン・ガールズとはいわないまでも、女同士のつながりの深さが印象に残りました。

絵本・児童書の編集も執筆も石井桃子さんの内なる子どもを喜ばすことが第一だったという指摘にはとても共感しました。谷川俊太郎さんもほとんど同じことをおっしゃっていました。
http://d.hatena.ne.jp/fumfum235/20140217


コピーもパソコンもなく、もちらん洗濯機や炊飯器もない時代になされた膨大な仕事の質と量には本当に圧倒されました。小さな字でびっしりと書きこまれた喜びや悲しみやそれ以上の複雑な感情を伝える手紙やはがきの数々も引用されていました。
翻って、便利な機械のおかげで、楽に暮らし、スカイプで居ながらにして顔を見て話すこともできるようになっているのに、このスカスカな感じは一体何なのだろう・・・村上春樹風に言えば高度資本主義の結果なのでしょうが・・・。この本を読んで、そんなことも考えてしまいました。