いわさきちひろの思い


昨日は東山魁夷について書きましたが、実はいわさきちひろに対しても、「あまりにも終始一貫してちひろ調すぎるのではないか?」と思っていた時期があります。
いわさきちひろ自身も、《かわいらしすぎる、もっとリアルな民衆の子どもの姿を描くべき》などの批判を受けて悩んでいた時期があるそうです。それでもなお愛らしいうつくしい子どもを描き続けたのは、子どもひとりひとりのしあわせを常に願っていたからなのでしょう。そして、どんな過酷な状況下にあっても、どの子のいのちも美しく輝いていることを知っていたからなのだと思います。
1970年に反戦野外展のために描かれたポスターのことば《ベトナムのこども わたしたちの日本のこども 世界中のこどもみんなに平和としあわせを》に胸を打たれました。

上の写真はいわさきちひろのアトリエを再現したものです。手洗い器が机のそばにあるのは便利そう。途中で絵具を洗い流したり、たらしこみをしたり、水を活用する作風だから必需品だったのかな?

今年は没後40年に当たるそうです。惜しくも55歳の若さで亡くなられました。今回の展覧会では絶筆も展示されています。息子さんに病室に持ってきてもらって、最後の仕上げをしたのだそうです。ちひろの描くこどもは西洋人形の愛らしさではなく、血のかよったモンゴロイドの愛らしさだと思います。私は少し腫れぼったいまぶたと、手と膝小僧とすねの表情が特に好きです。ちひろは「この子は自分でがんばって着たから、服がちょっとゆがんでいるのよ・・・。」といったひとりごとを言いながら絵を描いていたそうです。幼児も時々絵を描きながらひとりごとを言っていますが、通じるものがあるなぁと思いました。大人になっても保たれていたアニミズム的な心が絵に描かれた子どもにいのちを吹き込み、私たちを魅了しているのかもしれません。
ちひろ没後40年―世界中のこどもみんなに平和としあわせを―ちひろの願い》を企画された学芸員さんが、「年度初めに安曇野ちひろ美術館や各地で開催されるちひろ展の企画者とちひろの原画を取り合うのですが、今回の《あかちゃん―母のまなざし》コーナーは特に自信のラインナップです。」と胸を張っていました。保育士としては、絵を見て、この子は10カ月?この子は1歳半くらい?と月齢当てするのも楽しかったです。答えはないのですが(笑)
もしご存命ならば95歳。シリアの子どもや震災や原発事故に巻き込まれた子どものためにいったいどんな絵を描かれただろうか?と思いをはせました。