たっぷり甘えさせて しあわせ脳を育てる!

たっぷり甘えさせて しあわせ脳を育てる!  6歳までの子育て

たっぷり甘えさせて しあわせ脳を育てる! 6歳までの子育て

著者の渡辺久子さんは慶應義塾大学医学部小児科学教室で専任講師を勤めていらっしゃいます。私は保育・療育関係の講演会で二度お話をうかがい、二度とも感銘を受けたので読んでみました。
講演会で感銘をうけたクロノスとカイロスというふたつの時間のことがコラムになっていたので、書きぬいておきます。
 古代ギリシャ人はとても賢くて、人生の時間に2種類あると考えました。
 一つは1時間が60分で、1分が60秒で、という機械的な私たちがふつう時計で計る時間で、これをクロノスと名づけました。でも、ギリシャの賢人は、人が生きる時間はそれだけではないと考えたのです。
 たとえば、子どもたちが外で夢中で遊んでいて、ハッと気がついたらあたりが暗くなっている。そこでびっくりして、「さよなら、またあしたね」と言って、走って家へ帰る。その夢中で遊んでいる時間は、時計で計る時間とはまったく違った別の次元の豊かなその子だけの時間です。
 遊んでいる子どもたちにとっては、あっという間に過ぎる時間であり、また、その中ではときを忘れ永遠のように思われる時間。そういう時間をギリシャ人はカイロスと名づけたのです。
 そしてカイロスの時間がクロノスの時間よりも人生を生きる質としては大事だと考えられているのです。カイロスの時間を支える物質的なものを調達するために、クロノスの時間に縛られる時があってもいいということなのです。
 このカイロスというもう一つの時間が、ますます機械的な時計の時間に支配されて生きている私たち現代人にとって、人生の大事なキーワードになると思います。
 カイロスとは、「その人だけの時間」、「その人の主観的な時間」と言ってもいいでしょう。あるいは「ときを忘れて夢中になって生きている時間
」と言ってもいいでしょう。
 なぜこんなことを言うかと言えば、育児の時間がまさにこのカイロスの時間だからです。子どもはカイロスの時間の中で二度と戻らない「今」を生きているからです。
 お母さんが「今このとき、とてもいい時間だ。今本当にいい生き方をしている」という風に思えることが大事なのです。キャリアウーマンであっても、専業主婦であってもいい、子どもとカイロスの時間を共有できているかどうか、それが問題なのです。

 2001年に杉並区中央図書館で開催した石井桃子展の際に児童文学者の石井桃子さんが色紙に書いた言葉・・・
     子どもたちよ
     子ども時代を しっかりと
     たのしんでください。
     おとなになってから
     老人になってから
     あなたを支えてくれるのは
     子ども時代の「あなた」です。

に通じるものがあると思いました。大切な子ども時代をクロノスの時間の原理(エンデの『モモ』では灰色の男たち)で追いたてるのは避けたいです。