〈ひと〉の現象学

<ひと>の現象学

<ひと>の現象学

昨日ようやく読み終わりました。老眼が進み、理解力も衰え、半分くらいは理解できなかったのですが、「ここならわかる。保育の世界と共通!」と思った部分をちょっと書きぬきメモします。第三章 親しみ 家族という磁場 より
 そうした「しつけ」の基礎には、まずは家族への信頼と安心というものに浸れていることが前提となる。「手塩にかける」という仕方で、たっぷりと世話を受けた、ことあるごとにじぶんのことをかまってくれたという感覚がなければ、ひとは他者の命令に従おうとしない。信頼と安心の基礎、それが築かれるのは、じぶんがどういう存在であろうとじぶんがここにいるということだけで大事にされた、無条件に肯定されたという経験があってのことである。まわりの人間にことごことくこまやかに応対してもらった、手厚く世話をしてもらったという体験が、「しつけ」などの前提となる他者への信頼感を根づかせる。そして「存在の世話」とでもいうべきそのような経験が、自尊心の基礎となるものを育む。ここで自尊心とは、プライド〈自負心〉のことではなく、自分を粗末にしない心、かけがえのない自己というものの経験のことである。これがあってはじめて、ひとは他者の思いへの濃やかな想像力を抱きえるようになる。
 「社会的動物」としての人間は、このように、その原型となるものをまずは家族のなかで経験する。そしてやがてとくに親密ではない人びととの関係のなかに出てゆく。いくつかの壁を越えながら。