『みがけば光る』


石井桃子さんの『みがけば光る』というエッセイ集を読んでいます。1950年代と60年代に新聞や雑誌に発表された文章が大部分ですが、全然古びていません。
リアリストの文章だなぁ・・・と感嘆することしきりです。
面白かった文をいくつか書きぬきます。
 私は、犬を散歩につれてゆく時によく気がつくのだが、私のところの犬は、くさりをつけて歩くと、くさりをひっぱって前へ前へ出たがることがあるが、くさりをはずすと、恐縮しきって、わきをついてくる。
 子どもも、おんなじではないかと思って、私は、ときどき、おかしくなるのである。おかあさんのぐち『おんなと靴下』より 週刊文春 1960年

 ある人と話していましたら、その人は、外国人は、はにかみを知らないから野蛮人だ、日本人の方が、人間としてずっと上等だといいました。その後、わたしは、折にふれて、その人のことばを思いだして考えていますが、わたしたちが人まえで自分の意見をいう時にまず感じるしりごみは、はにかみでなく、ひっこみじあん、自信のなさではないかと思います。ここでわたしが自信というのは、何かたくさん物を知っていて、どこをつっこまれても返答にこまらないということではありません。役人を長年していると、そのようないみの手くだはできるでしょう。わたしのいうのは、わからないことはわからないということ、そういうことをいっても、人に笑われはしまいかと考えて自分を傷つけるということをしないですむ精神的な安定感です。この安心感をもった時に、人間は精神的にびっこになって、人にもたれかかったり、おんぶしたりしないですむように思うのですが、そういう状態に達するには、やはり相当な何ものかを、自分の内にもっていなければならないでしょう。 『日本人のはにかみ』より 初等教育資料 1960年

この文章に書かれている精神的な安定とは自己肯定感そのもの。それが乏しいと人間関係で共依存状態になりがち・・・。鋭い人間観察だなぁと思いました。
太宰治との思い出も収録されています。井伏鱒二(清水町先生)を介して知り合っているので、荻窪周辺の出来ごと。地元の話題なので、やはり身近に感じます。石井桃子さんが存命中に一度だけ、かつら文庫を訪ねたことを懐かしく思い出しました。

みがけば光る

みがけば光る