個別性を重んじること


もよりの図書館では廃棄になった本を一回五冊までもらうことができます。先日、ふと目についた福音館書店の『母の友』2011年8月号をいただいてきました。ドキュメンタリー映画監督の想田和弘氏のインタビューに感銘を受けたので、ちょっと引用させてもらいます。『Peace』という映画が公開される前のインタビューです。
「平和」とは国や社会の状態だけではなく、心の状態も指す言葉なんだなということに映画を撮ってはじめて気づかされました。
 橋本さんという91歳のご老人が出てきますが、彼は一人暮らしで身よりもなく、お金もなくて生活保護を受けてて、末期癌で死を目の前にしていて・・・と、文字にするとけっこうきついんですよね。それなのに、とても穏やかな方で、心の平和が保たれているように、ぼくには見えたんですね。少なくとも、ぼくが知ってるニューヨークの大富豪の多くより心の平和がある(笑)。だから、外面的な状況と、心の平和というのは、関係はあるかもしれないけど、必ずしもダイレクトにつながっていないのではとも思いました。
それから、その橋本さんが、戦争の話を突然ふっとしたんです。「一銭五厘赤紙」が来ると、親が死のうがなんだろうが、すぐに召集されて、戦争に行かなくてはいけない、そういう時代だったと。
 それってどういうことなのか考えると、「個人の事情は無視してよい」ということだと思うんですよね。赤紙が来たら、どんな事情があっても、戦争に行く。逆に、そういうふうに人をかり出せる状況がない限り戦争はできない。だから、戦争になりにくい社会をつくるためには、個別性を尊重するシステム、あるいは空気を作っていくことが大事なのかな。ぼくはそんなふうに思いました。福祉の精神やシステムは、人々の事情や状況を尊重してサポートするためにこそあるわけで、それらが本質的な意味で育っていけば、平和も育っていくのかな、と。
 いずれにしろ、何か選択に迷ったときは、個別性を尊重するという方向を選べばいい。個別性を尊重するための一番の基本は、「相手をよく見る・よく聴く」ということですね。たとえば子育てでも、親や社会の理想型に押し込めるのではなく、子どもの声に耳を傾けるということが、もしかしたら、平和な個人や家庭、そして社会を育てていく上で、大事なのかなっていう感じがしています。