インビクタス 負けざる者たち

INVICTUSは“征服されない”という意味だそうです。“まつろわぬ”と言いかえると映画には全然関係ありませんが、日本の古代史・民衆史が連想されますね。
お休みモードでグズグズしていたので、新宿ピカデリーの最前列しか席が取れず、スクリーンを一目で見渡せないという、悲惨な状況でした。でも、さすがは名匠クリント・イーストウッド監督。首は痛かったけど、全編集中して見られました。本当はラグビーのシーンだけでも見直したいけど・・・。
ネルソン・マンデラの自伝(「自由への長い道」)をそのまま映画化することは難しかったけど、「INVICTUS」を原作にラグビーワールドカップ1995の奇跡に収斂する形でならマンデラを描くことが可能だったというプログラムの記述が面白かったです。まさにシンクロニシティ。出会うべき人たちが出会うべき時にめぐりあって完成した作品なのでしょう。題材的に似たところがある、アッテンボローの「ガンジー」はエピソードを詰め込みすぎたせいで印象が拡散して、私は今となってはTVスポットに使われていた群衆シーンしか覚えていないので、この判断は正しかったと思います。
マンデラ本人が「この人に演じてもらいたい」と言っていただけあって、モーガン・フリーマンマンデラは本当にはまり役でした。品格、温かみ、存在感、素晴らしかったです。プライベートなシーンでは柔かい服に身を包んでいるシーンが多く、基本的にマッチョなイーストウッド映画の中で、「赦す」「共感する」「信じる」という女性性を体現している感じがしました。秘書の服を褒めたり、SPのためにイギリスで飴をお土産に買ってくるあたりもオバチャンっぽくてかわいいと思いました。人心掌握術のひとつなのかもしれませんが・・・。
そんなマンデラも家庭人としては、大義のためとは言え、27年間収監されて不在だった父。あまりにも立派すぎる父。という事なのか、最初の妻とは離婚、娘からは避けられている様子。その辺はさりげないエピソードで想像させる巧みな演出でした。
SPとラグビーの選手たちは肉体と戦略で勝負し、大統領は言葉で勝負していました。言葉の力を信じたくなる映画でした。
時々挿入される、映画ならではの小ネタが最高!帰りの通路で通りがかりのご夫婦が「あの場面が一番よかったわ〜。」と言っていたシーンは顔のつくり&カメラワークによるサスペンス盛り上げが痛快。実話だったのかな?私は白人のSPがマンデラの茶会に出る前の主将と言葉を交わして、その優等生的返答にがっかりし、SP仲間に「脈はありそう?」と聞かれて、「ワールドカップ 全然ムリ!」即答するシーンが好きでした。
     インビクタス  ウィリアム・アーネスト・ヘンリー
  私を覆う漆黒の夜  鉄格子にひそむ奈落の闇
  どんな神であれ感謝する  我が負けざる魂〈インビクタス〉に
  無残な状況においてさえ  私はひるみも叫びもしなかった
  運命にうちのめされ  血を流そうと決して頭は垂れまい
  激しい怒りと涙の彼方には  恐ろしい死だけが迫る
  だが長きにわたる脅しを受けてなお  私は何ひとつ恐れはしない
  門がいかに狭かろうと いかなる罰に苦しめられようと
  私は我が運命の支配者  我が魂の指揮官なのだ