本・子ども・大人   ポール・アザール


その王国に住む者たちは、大人とはまるで別の人種であるかのようだ。この疲れを知らない子どもたちの、並はずれた豊かな生命力には、ただただ驚くほかはない。彼らは朝から晩まで、走まわり、わめきちらし、喧嘩し、仲直りし、飛んだり跳ねたりしながら立ち去ってゆく。そして彼らが夜眠るのは、翌日、陽の出とともに起きだして、また同じことを繰り返すためにほかならない。彼らの弱い、未熟な肉体がそもそもすでに、将来の成熟へのやむにやまれぬ希望なのだ。彼らは、まだ所有していないあらゆるものを豊富に持っている。彼らは無限の可能性を秘めた魔法の世界に住んでいる。空想することはたんに彼らの第一の楽しみであるばかりでなく、彼らの自由のしるしであり、彼らの生命の飛躍なのだ。まだ分別にしばられることもない。窮屈な分別のとりこになるのは、もっとずっとあとになってからのことだ。子どもたちは夢を雲の上にはせる。そして、なんの虞(おそ)れもなく、なんの私心もなく、なんの負担も感じないで、この仕合せな者たちは遊んでいるのである。



子どもたちはこう言う。「ぼくたちに本をください、翼をください。あなた方は力があって強いのですから、ぼくたちがもっと遠くまで飛んでいけるように、ぼくたちを助けてください。魔法のお庭のまんなかに、真っ青な宮殿を建ててください、月の光を浴びて散歩している仙女たちを見せてください。ぼくたちは学校で教わることはみんなおぼえたいと思っています。でも、どうかぼくたちに夢ものこしておいてください。」

今から70年以上前に書かれた、子どもの本に関心を持つ人々にとっての必読書だそうです。最初の日本語訳は1957年に出版されています。翻訳は矢崎源九郎さんと横山正矢さん。子どもへの愛にみちた詩のような文だと思います。

写真は講談社野間記念館からの帰り道、目白駅まで歩く途中で撮影しました。小さな児童公園から崖の向こうの『ブレードランナー』の1シーンみたいなビル群の写真も撮ったのだけれど、ひどい手ぶれ写真でした(涙)