柴田是真 漆×絵


今日も工芸品好きな娘と三井記念美術館に行ってきました。この美術館は1929年竣工の三井本館内7階にあります。展示室にレトロな暖炉があったり、美術館の外の廊下に重厚な金庫室のドアがあったりで美術館自体も興味深かったです。
〈柴田是真の漆×絵 江戸の粋・明治の技〉展では、是真の蒔絵のレベルの高さに圧倒されました。でも、なんと言っても面白かったのは、隙のない美しさの誰からも好まれるであろう細工が出来るにもかかわらず、時にヘンな嗜好が顔を出しているところでした。煙草入れの引き出し部分のつまみがリアルな蠅だったり・・・。特に70歳を過ぎてからの作品には「是真 行年74歳」とか「是真 81歳翁」とか自分の年齢入りの銘が書き込んである作品が多いので、「もう、こんな年なんだから、自分の好きなように作らせてもらいますよ」というメッセージを勝手に受け取ってしまいました。
一番印象的だったのは、「闇夜桜扇面蒔絵書棚」。桜花は青く光る貝を象嵌、引き出しの取っ手は松葉の意匠、闇夜を思わす漆黒の地塗り・・・そこまでは繊細優美の極致なのに、なぜか扇面には、盛り上がったマチエールで諸星大二郎のSFマンガに出てくるような岩が描いてあるのですよ。岩と貝のモチーフだとどうもヘン路線に拍車がかかるようで「宝貝尽図」等の執拗に装飾された貝は草間弥生さんの作品を彷彿とさせていました。娘も「あの ブツブツの人の絵(笑)に似てる。」と言っていたのでそう感じたのは私だけではないみたい。
洒落っ気のある人で、漆で紫檀や金属や陶器を模した作品も沢山ありました。手にとってみて、その軽さで初めて素材の違いに気づくなんて面白い経験でしょうね。
また、手触り・触感に強いこだわりのある作家なのではないかと漆絵を見て思いました。パウル・クレーは皮膚にトラブルをかかえてから、ザラッとしたマチエールの絵を描くようになったと何かで読んだ記憶があります。漆塗りの職人さんでも体調によってはかぶれるということなので、案外是真も皮膚炎には悩まされていたのかも・・・なんて想像してしまいました。本日私が展覧会につけたキャッチコピーは「テクスチャー(質感)に憑りつかれた名工・是真」です。
ところでタイトルの「波に奔しる兎」は「紫檀塗波兎図木刀」の説明文にあった謡曲竹生島」の『緑樹影沈んで 魚木に登る気色あり、月海上に沈んでは 兎も波を奔るか』から取ってみました。この木刀、好きだなぁ。以前サントリー美術館でも、青海波の中を奔る兎の模様に心魅かれました。好きなモチーフってあるものですね。「烏鷺蒔絵菓子器」も器を埋めつくす烏と鷺の群れがエッシャーのようにシャープで素敵でした。
帰りに奈良まほろば館で「国宝巡礼奈良まほろば手帳」とはちみつを購入しました。かの有名なせんとくんが来店していました。テーマソングもちょっとヘンテコでした。
上の写真は地下鉄三越前駅構内に展示してあった、日本橋周辺の絵巻物のレプリカ。のんびりした犬にご注目。

こちらは三井本館7階のお手洗い個室のレトロなドアノブ。ドアは床まで届いていないスタイル。足元は外から見えるわけです。足が見えないのに鍵がしまっていたら・・・ちょっと怖い?