もりのなか
今日は私の好きな絵本を紹介します。
マリー・ホール・エッツの『もりのなか』には大人になってから出会いました。
“男の子が森の中にひとりで入り、色々な動物たちといっしょに行列をして、ピクニックをし、ハンカチおとしをした後、かくれんぼの鬼になると動物は誰もいなくなっていて、お父さんが迎えにきていた”というストーリーで、木炭で描いた(?)柔かいタッチの絵が白黒ですが、とても暖かい感じです。アメリカでの出版は1944年9月とコピーライトに書いてありました。出版の月まで書いてあったことに今初めて気づきました。きっと秋の森なのでしょう。
実は私は初めてこの絵本を読んだ時、「この男の子は熱病か何かに罹って死にそうになり、お父さんに呼ばれてやっとこの世に帰ってきたのではないかしら?臨死体験の絵本?」という感想をまず持ってしまったのです。男の子はずっとらっぱを吹いているのに、絵本の中の森が不思議なくらい静謐だったので・・・。
絵本に出会ってから、2年後に謎が解けました。小田急美術館で開催された「3人の絵本作家 W・ガァグ L・バートン M・エッツ」展の図録を読んだところ、エッツがこの絵本を製作していた時、エッツの夫はガンにおかされていて、シカゴ郊外の森の中に家を借りて、夫と共に最期の日々を過ごしていたと書いてありました。看取りの日々に自分をなぐさめるために描いた絵本だから、わずかに死のにおいがするのでしょう。絵本の中で男の子にそっとよりそっているウサギはエッツ自身なのではないかしら?
エッツは幼い時、ウィスコンシンの暗い森にひとりで出かけて行き、何時間もすわっていたそうです。森では『わたしとあそんで』そのままに、待っていると鹿の親子、ヤマアラシ、アナグマ、カメ、カエル、クマやスカンク、毒ヘビまで現れたと晩年語っていたそうです。
『もりのなか』の続編『またもりへ』はきちんとしたオチのあるわかりやすいストーリーです。こちらも大好きですが、完成度の高い職人仕事という感じ。一方『もりのなか』はエッツに降りてきた、芸術作品だと私は思っています。
ヒトは森から草原に出てきたサルを起源とすると言われていますが、そのせいでしょうか、森に対して、無意識レベルまで届く深いあこがれを持っている気がします。『もりのなか』は私の無意識に静かに語りかける絵本です。
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